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『……ごめんね、ごめんね』 何度も自分に向かって謝るその人に、ナルトは指を伸ばす。 つ…と、指先に雫が伝った。 濡れた感触はそれでも温かくて、ナルトの胸にじんわりと広がっていく。 自分とよく似た髪の色。今は閉じられている瞳はやはり自分と同じ色をしていた。 (あー…そういえば、エロ仙人が俺と似てるって言ってたっけ) この人は何故、自分を抱き締めながら、声も立てずに泣いているのだろう? その理由を知りながら、それでも恨む気にはなれなくて。 だから、早く泣きやんで、そして、自分を見てくれれば良いのにとナルトは願う。 『何で泣くんだってばよ…』 (謝らなくてもいいのに……) 謝られるようなことをされたと、自分は思っていないのだから。 『里を守った英雄だったんだろ? 泣いてちゃおかしいってば』 『だって、僕のせいで君は…』 『俺がいたから!』 言葉の続きを言わせたくなくて、ナルトは遮るように声を上げた。 『俺がいたから……里を守れたんだろ?』 ナルトの言葉に、閉じられていた瞳が開いた。 ナルトと同じ、澄んだ空の色をした瞳。 その瞳を、有無を言わせない強い瞳が下から見上げる。 『だったらさ! だったらさ! 俺ってばスゴイってことだってばよ!』 満面の笑みでそう告げたナルトに、ようやく目を開けたその人はキョトンとした表情を浮かべ、 そして、ゆっくりと、ナルトに向けて柔らかく笑った。 『うん。君はスゴイよ』 笑ったその顔が嬉しくて、ナルトはもっとその顔が見たくて言葉を紡ぐ。 『四代目もスゴかったってば! だって、命を懸けて里を守ったんだから……』 『俺ってば、そんな四代目を誇りに思ってるんだからさ……』 『……だから、泣くことなんてないんだってばよ?』 小さな子を宥めるように、ナルトはその人の顔を覗き込む。 どちらが子供か分からないような状況に、『四代目』と呼ばれた彼は苦笑した。 『いい子に育ったね』 自らが纏っていた羽織を脱ぐと、彼はそれを目の前の子供の肩に掛ける。 もう一人の里の英雄を称えるように そして、伝えられなかった想いの分、その身体を抱き締めた。 ──愛おしい、愛おしい、大切な君。 『いつかは君がこれと同じものを着てくれると良いな』 ──だって、君もまた、里を守った英雄なんだから。 『着るってばよ! だって、俺ってば未来の火影なんだから!』 宣言するナルトに、笑いながら彼は頷いた。 『あのさ、あのさ…』 クイッと髪の毛を引っ張られて目を向ければ、俯いたナルトが目に入る。 その頬は紅く染まっていて、何かを言おうと必死になっていることが伝わってくる。 『ナルト?』 『…俺のこと心配してくれた? だから、こうやって会いに来てくれたってば?』 上向いた青い目には薄い水の膜が張っていて、彼は驚く。 『会いに来てくれて、ありがとうだってばよ』 はにかんだような笑顔。 想われるという気持ちを、当然として受け入れられることのなかった子供の、精一杯の言葉。 『嬉しいってばよ』 その言葉と、その表情に。 嬉しくて、哀しくて、やはり声もなく抱き締めることしか出来なくて。 いまだ小さなその身体を、彼はしっかりと抱き締めた。 けれど、それはすぐに、腕の中の身体の小さな身動ぎで緩められる。 『四代目、これ』 ナルトの左腕が目の前を占領し、そして、差し出されたものは紅い花。 『これは?』 受け取って首を傾げれば、 『四代目の為の花だってばよ』 そんな答えが返ってきた。 『今日は里を守った英雄を偲ぶ日なんだってば』 受け取った花を彼はじっと見つめると、優しい瞳で尋ねた。 『この花は、ナルトが僕の為に用意してくれたもの?』 『そうだってばよ。任務中に見つけたんだってば』 岩の上に凛と咲いていた紅い花。 その姿があまりにも綺麗で、誰かを思わせられずにはいられなかった。 一人で巨大な妖に立ち向かった英雄を。 この目の前で微笑う存在を。 『ありがとう、ナルト』 大きな手がナルトの頭を撫でる。 『けど、さっき言った言葉には間違いがあるよ』 『間違い? 何か違ってたっけ?』 何を間違えたのか解らず、ナルトは眉を寄せて考え込む。 『うん。今日は里を守った英雄の誕生日だよ』 『え?』 『君の…ナルトの誕生日だろう?』 どこか懐かしく感じられる笑みがナルトに向けられる。 幸せを表したら、きっとこんな形になるんだと思わせられるような、そんな笑み。 『誕生日おめでとう』 コツンと、軽く合わせられた額。 柔らかな声がその生誕を祝う。 彼にとって、何よりも大切な存在の為に。 『生まれてきてくれて、ありがとう』 目の前の肩に顔を埋めながら、ナルトはくすぐったい気持ちに頬を緩める。 こんな風に言ってもらったのは初めてだから、ひどく照れくさい。 それに、この腕の中はとても懐かしい感じがする。 自分からは離れがたくて、抱き締めてくる腕も緩められることはない。 優しい温もりに抱き締められながら、ナルトはその心地よさに目を閉じた。 『ん……えっ?』 眠い目を擦りながら起きあがったナルトは、手に付いた水分に驚く。 『な、何で泣いてるんだってば? 何か変な夢でも見たのかっ!?』 一人で訳も分からずに混乱していると、ふと、紅い色が目の端に映った。 ベッドの脇、ガラスのコップに挿してあるそれは四代目に捧げる為に採ってきた花。 花を見つめるナルトの口元に、やがて柔らかい笑みが刻まれる。 『……でも、何だか良い夢だった気がするってばよ』 懐かしくて、温かくて、優しい──色で例えるなら金色の夢。 そして、言葉では表しきれない幸せな気分がナルトを満たしているのが何よりの証拠。 『今日は良い日になりそうだってばよ!』 窓の外からは今日見た夢のように、金色の太陽がナルトを照らしていた。
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